akiraの個人ブログ

akiの個人ブログです。読んだ本の感想、めんたねでやってる心理学、カウンセリング、催眠の事とか、他にも旅行、外食、買ってよかったもの、ラノベ、アニメなど興味のあるものを書き連ねていきます。

【書評・感想】『水運史から世界の水へ』徳仁親王 (著) 天皇陛下の皇太子時代の講演録で研究にガチなのがわかる本


5月に改元し令和となった。これまで皇太子殿下も新しく天皇となり、テレビでは改元の盛り上がりにあわせて皇室の特集が良く組まれている。新しく即位した天皇が中世の水運や英国の水運史を研究しているというのはふわっと知っていたが具体的にどういったことをやっていたのかというのは、あまり知らなかった。前々から読もう読もうと思っていたけどもAmazonの欲しいものリストに入れたまま放っておいていた。改元の勢いそのままに衝動的に買った本である。

結論から言うとものすごく面白かった。凄く失礼な言い方かもしれないが予想以上に内容が濃くて専門的な内容だった。とにかく情報量が多い。普通に知らなかったことも多く、本当に勉強になった。

全体を通して感じた印象は皇族の講演録というよりは、中世史・英国水運史を専門とした学者の講演録だった。もっとくだけて言えば天皇陛下は研究にガチであるのがよく分かる。

本の構成は8章構成で1章から6章は講演録、7章と8章は学習院女子大学の特別講義の内容を掲載している。期間は昭和62年(1987)~平成30年(2018)のものになっている。内容は全て題名にもあるが「水」にまつわる物だ。水資源問題、水害問題、中世の水運史、英国の水運史、そして津波被害。テーマはそれぞれの講演で深く語られているが内容も多岐にわたるので印象に残った箇所を紹介したい。

特に読んでいて面白いと思ったのは、陛下の専門分野に関する講演だった。つまり中世日本の交通史と18世紀のテムズ川水運史である。たんに情報として伝達するのでは無くて陛下自身の研究に対する歩みを含めてのないようであったので研究のプロセスを追うことができたのが面白い。そしてこうした語りから天皇陛下は本当に学問が好きなんだというのが解ってくる。

エピソードも琴線に触れる物があって、そもそも陛下が大学で中世交通史を専門にしたのは元々「道」に興味があったからで、なぜ道に興味を持ったのかと言えば、赤坂御用地に鎌倉時代の道があったことを小学生の時に知ったことがきっかけというエピソードや、母(美智子さま)と奥の細道を一緒に読んで更に深まったという話は研究の原点がわかってすごく面白かった。こういう好奇心から始まる研究はきっと充実した物であると思う。

またそれとは別に単純に交通・水運の歴史を僕は詳しく知らなかったので初めてこの本を読んで知ったと言うことが多かった。
琵琶湖から淀川にかけての水運が『延喜式』の律令時代から成立していたと言うことや、中世期の瀬戸内海海上交通では兵庫の港が重要な拠点で海外貿易にも使われていたダイナミックなものであったことなど。

特にこの話は専門であることもあって1次資料を用いて読み進めながら当時の状況や取り扱われた品物、時代背景などを解説していくスタイルで講演をやっていたのでとても面白く勉強になった。研究のプロセスを開設して貰えた感じがした。

英国の水運史ではテムズ川の17~18世紀の河川改修工事のプロセスが解説されていた。これも全然知らなかったが現在のテムズ川は改修工事を大幅にやって出来上がった箇所も多いのだという。それに伴い水門や水位上昇のためのシステムなどが整備されていったことも初めて知った。

本の後半では江戸の水運をテーマにした講演でこれで見沼通船堀の存在を初めて知った。江戸時代に入り江戸が都市化されていき人工が増えるために物資の確保が課題となっていた。そこで見沼代用水と芝川とを結ぶ閘門式運河が作られることになった。現在では東浦和駅にその遺構が残っている。というか意外と近いし西川口に行くついでに行けるので実際に行きたくなった。水路には高低差があるので登るときは水位を上げる必要があり、江戸時代にしかも日本にそんなのがあったとは全然知らなかったので単純に面白いと思った。

後半の章では震災の特に津波被害にまつわる話だった。実際に被災地を回られた経験を交えながら、研究者らしく古典に記載されている震災の記録を紹介しながら話を進めていた。

情報量も多く、普通に勉強になるし、実際に街歩きもしてみたくなる知的娯楽としても、そして水にまつわる社会の諸問題に対してもよく考えることのできる本である。

水運史から世界の水へ
水運史から世界の水へ
posted with amazlet at 19.05.22
徳仁親王
NHK出版
売り上げランキング: 641